嘘のような現実

以前に地下鉄筋コンクリート造、地上木造2階建ての住宅地を
購入された方より全面リフォームのご相談を受けた際の出来事です。

改修計画を策定するために、現況の建物がしっかり造られたものかを事前に
ある程度把握するために、先ずは壁の一部のみを解体することにしました。

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バブル期に竣工した建物でしたので、当時の確認申請図を拝見することができ、
それによると1階の壁には全て『たすき掛け(クロス状)』に筋交いが入っている筈です。

しかし実際には土台と基礎を緊結するアンカーボルトは確認することができましたが、
筋交いは片方しか確認できず『片筋交い』であることが判明しました。

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既存建物の1階押し入れの天井を外して、フラッシュを焚いて撮影してみました。
奧にある斜めの木材が筋交いの上部になりますが、ここでも片側の1本しか確認できませんでした…

この建物はこのような感覚で造られていることを予想すると、
筋交いは設計図書の半分しか入っていないことになります。

使用上のプラン変更を行いつつ、これらの構造上の問題を改善する
リノベーションを行うことになりました。

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施工していただく工務店が決まり、いざ本格的に解体を進めていくと…

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なんとキッチンのレンジフードの開口が筋交いを分断していました!
これでは構造的には全く効いていない無用の筋交いです…

他にも目を疑う光景が…
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筋交いの真ん中にはインターホンを設置するための開口が抜かれていました…
(ちなみに穴の空いていない方は新規に追加補強した筋交いになります)

こちらは改修中の写真です。
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このように必要な構造耐力を満たすべく、筋交いを追加設置しました。

バブル期等の、人手不足の状況下では工程を一方的な都合で端折ってしまった物件や、
手を抜かざるを得ない程の厳しい請負体制の結果としてこのようになってしまった
物件を見かけることがあります。

こちらは他のバブル期の住宅の不具合事例になります。
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タイル貼りで一見高級そうな佇まいの建物でしたが、木造の壁でありながらも
外壁には通気層がありません。

合板の上にアスファルト防水シートを被せ、ラスモルタルを直接塗った上に
タイル貼りという外壁でした。

更には下階の鉄筋コンクリートへと構造が切り替わる部分に水切りもありません…

その結果、壁内に入ってしまった水分は外部に抜けることができずに、
水分が集まる壁面の下方部分の土台や柱の根元は腐食がかなり進行している状態でした。
これでは構造的にも危険な状態です。

このために室内の外周際の床はふかふかな状態で、外壁は部分的にタイルが落ちて
穴が空いているような惨状となり、防水のための壁内のアスファルトシートは
風化してパラパラとれてしまう状態で役を為していませんでした。

本来は、下地の木材が湿ったままにならないような納まりで施工しなければなりません。
合板を下地に用いるのであれば、通気層を設けることで万が一水が入ったとしても
外部に水を排出することが可能です。

木摺り板にラスモルタルを施す伝統的な工法を用いていれば、壁体内側に空気層が
ある程度残るため、このような酷い状態にまでは至らなかったのではないでしょうか。
その点では長年培われてきた伝統工法が優れていると考えました。

こちらは修繕中の写真です。
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大がかりに直すほどの費用がかけられない状況のため、防水紙が腐食している高さまでの
範囲に限定して外周の全てを解体しました。

そして腐食している土台や柱の下部の部分交換と補強を施し、通常よりも厚い
アスファルトシートを上部の既存防水紙に挟み入れるかたちで新設し、
構造が切り替わる部分に水切りを設置する改修を施しました。

これは向こう数十年を前提としたある意味割り切った改修方法となります。

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折角ですので前に紹介しましたリノベーション物件の、
地下にあります浴室の改修前と改修後の写真をご覧いただきましょう。

こちらは解体前の既存浴室ですが、この色や質感をなんとかされたいとのことでした。
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こちらが解体後の様子です。
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そしてこのように生まれ変わることができました。
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(杉浦 充/充総合計画一級建築士事務所)